Happy Going
見た作品紹介や日々思ったことなどをつづった超不定期ブログ。時々小話(短い小説)も。管理者はオタクです、多分。

 

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【オリジ短編】おやじトリップ

何か書きたくて書いてみた。
おやじさんが異世界にトリップ。
多分、続かない。
これをもとに書きたいことあって固まったら続き書くかもしれないけど。


さあ、英雄になりそこねた男よ。
今一度、英雄になる機会を与えてやろう。

 駅のホームには人がひしめき合っていた。スーツ姿のサラリーマン、学生、買い物帰りの女性と様々で、帰宅時の混雑とうかがえる。
 彼がこんな時間に帰れるのは久々だった。不景気の煽りはまだまだ続き、契約をこじつけるのも楽ではない。夕刻相手先から会社に戻り、内部会議に出席。その後上がってきた別の相手先への資料の校正を終わらせて退社すれば終電間際、というのがいつものことになっていたのだ。
 早めの時間とはいえ、彼の体力は既に疲労しきっている。運よく彼が今立っているのは列の先頭。更にこの駅より前の駅は乗り降りが少ないことからこの駅から乗車する場合、空席がある確率が高い。たかが二、三十分の乗車だがほんの少しの休憩でも彼にはありがたいことだった。
 ここのところの彼の疲労は仕事のことだけではないのだ。家庭内の問題、もとい昨年から大学生となった息子のことも疲労の、特に精神疲労の原因であった。
 彼の息子は中学、高校時代、いじめでもなんでもないただのやる気不足で学校を欠席しがちだった。出席日数が不十分で進級すら危ぶまれたが、試験できが良いおかげでなんとか進学させることができた。
 本人は進学は望まずできれば就職希望だったのだが、進路相談で出席日数が問題で就職に関しては学校推薦が出せないと言われ、仕方がなく進学を選んだ。もっとも、今が大学全入時代と呼ばれているから進学できたのだろう。そうでなければ今ごろフリーター、最悪はニートの仲間入りであった。
 そんな息子が突如「ファンタジーってなんだろうか」と彼に問いかけてきた。
 どうやら息子は大学で友人ができたらしく、その友人の影響で本を読み始めたらしい。その本の内容がいわゆるファンタジー小説であったかは定かではないが、本のせいであるのは彼にも分かっていた。
 ゲームはしない、ビジネスコミックス以外読まないの彼に分かるファンタジーと言って思い当たるのは妻に連れられて映画館で観た「なんとか物語(なんとかに入る言葉は彼の中では覚えていない)」ぐらいだった。しかも半分は寝てしまっていてはっきりと内容は覚えていない。ただ、現代から見れば古い時代、連想するなら中世ヨーロッパのものと思われる武装で戦うシーン、何やら怪物が飛んでいるシーンだけははっきり覚えていた。後はドラゴンとか魔法とか、意図せずに耳に入ってくる単語程度だ。
 認識としては、子供が夢見る世界程度であった。もちろん、それを映画やテーマパークなどのエンターテイメントとして作る大人がいるということも頭にあるが、子供のものであるという考えには変わりない。
 そんな世界のことをもうすぐ二十歳になる息子に問い詰められた。もちろん、答えは「テーマパークみたいなものじゃないか」ぐらいである。息子の反応はいまいちだった。
 これだけならまだいい。今度はアニメ映画を借りて見た息子はおもむろに和室の畳を持ち上げ、そこにある床を見て溜息をつくという奇行に及んだ。
 妻はこんなことをしている不安よりも、昔より活発になってくれている嬉しさが勝っているらしく何も言わない。これには頭を抱えざるはいられない。
「はぁ…」
 思わず重たい溜息をつく。そんな彼が抱えている鞄からは一冊の本がはみ出ていた。とりあえず息子を落ちつけさるために、古本屋で買ったものだ。
 「子供にせがまれてファンタジー小説を買いに来たんですが」と定員に言って選んでもらった。今までファンタジー小説など読んだことのなかった彼なので、持ってこられた本の厚さには少々驚いた。おかげで鞄はずっしりと重い。
 ホームにアナウンスが響き、現実に引き戻される。どうやら何かトラブルがあって遅延していたようだが、まもなく電車はくるそうだ。
 とりあえず家に帰ってから考えよう。そう思い、力が抜けていた時だった。
「わっ!?」
 後から列に並んだ人のせいだろうか、後ろの人の胸に背中を押されて体が揺らぐ。そこまで強い衝撃ではなかったので本人が押し出されることはなかった。
 抑揚のない声で「黄色い線の内側に下がってください」というお決まりのアナウンスが響いていた。
 彼の代わりに鞄に入っていた本が線路へ躍り出た。
 彼は本を落とすまいと手を伸ばす。その動きで元々崩れかけていたバランスを完全に崩し、気づけば彼の体は宙を舞っていた。
 最後に聞こえたのはプオーンという電車のサイレンだった。



 一体どのぐらい経ったのだろうか。彼の意識が徐々に戻り始めた。
 打ちつけたのか背中からじんじんと痛みが伝わる。痛みがあるということは生きているのだろうか。
 感覚が戻り始めてまず感じたのは、自分が草原に倒れているということだった。見上げれば、なんとも清々しい青空。呼吸を一度してみると、排気ガスやビルの空調の排熱などで淀んだ都会の空気ではない空気が肺を満たした。
(確か、俺は電車の前に転げ落ちた気がしたんだが)
 もしかして天国なのだろうか。そんな考えが過った。だが、耳に入ってきた音に、その考えは否定された。
 それは遠くから聞こえてきた。何かがぶつかり合う音、何かが騒いでいる音。そして時々腹と地面に響く轟音。
 彼は上半身を起こし、辺りを見渡した。
「な、なんだこりゃ!?」
 まるで大河ドラマの合戦シーンを見ているかのようだった。いや、まさしくそこでは合戦が行われていた。ただし戦っているのは日本の鎧武者ではなく、妻と観た映画と同じようなもの。中世ヨーロッパの甲冑と言うべきか。
 一体何人の兵士が戦っているのかは予測はつかない。武器が、縦が相手とぶつかり合い、あるものは武器で相手に貫き、貫かれる。時折兵の間から、炎によるものなのか閃光が煌めく。
 彼がいるところは合戦が一望できたのが不幸中の幸いか。これなら合戦に巻き込まれず逃げることができるだろう。しかし今の彼の思考は完全に停止し、その場を動くことすら考え付かなかった。
「この辺りであります」
 不意に聞こえた人の声が彼を我に返らせた。声のした方に振り替えると馬に乗った兵士数名とその兵士とは異なる厳つい甲冑を来た人、そして若い男が一人いた。
「どうやらあの者のしわざのようですね」
「待て。まだ分からない。風を操って姿を消している兵がいるかもしれない。警戒を怠るな」
 彼はその警戒を促した若い男の顔を見て驚愕した。
 何故ならそれは、息子の顔だったからだ。
「!? ちち、うえ…!?」
 彼が声を挙げるよりも先に若い男の方が声を挙げた。彼と同じく酷く驚愕して。
「陛下、惑わされてはなりません! 敵の妖術の一種に違いありません。そうでなければ亡き王がこんな場所に、しかもこんな面妖な格好でおられるはずがありません!!」
 厳つい甲冑の男の持つ槍の先が咽元に突きつけられる。
 彼にはもはや事情を説明する余裕すら書き消えて、ただ目を点にして若い男を――陛下と呼ばれた息子と瓜二つな青年を見つめるだけだった。

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